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Vol.19
このメルマガは、ディスペンサーのトータルソリューションを提供する(株)サンエイテックがお送りする、エンジニア向けWebマガジンです。 『近未来の快適デジライフ』と題して、身近な製品の半歩先の世界をお届けします。 |
近未来① 魔法の透明マントが現実に「メタマテリアル」
近未来② 見えないものを見る技術「最新センサ事情」
袋小路を背に立つ黒衣と、対峙するベージュのトレンチコート。「今日こそ追い詰めたぞ、怪盗3A」トレンチコートが余裕の表情で煙草に火を点ける。しかし、更に落ち着いた表情を見せ、流れてきた紫煙を払う黒衣。「わたしを追い詰めた、と?」口元だけで笑みを見せると肩越しに手をやり、何かを羽織るような仕草をする……。と、次の瞬間、黒衣の姿がかき消える。「お、おい、どこいった?!」あわてふためくその傍らを、靴音だけが、すりぬけていく「また、お会いしましょう」「おい、どこだ! 待て!」勿論、それに答える声もなく、ただ足音だけが遠ざかっていく……。映画やドラマ、それから魔法物語などではおなじみのこんなシーンですが、現実のものになるかも知れないんです。
そもそも「見える」という現象は、光源からの光を物体が反射し、それを受光素子である網膜が捉える事で成り立っています。つまり、この反射をどうにかすれば良いという事で、例えば「ステルス迷彩」と呼ばれる技術は、それぞれ角度の異なる無数の微細なミラーをまとって、光をランダムに反射させたり歪めることで、姿を「把握できなくする」というもの。しかし、よく考えてみれば、直接その人は見えなくても、「そこになにか有る(いる)」というのは判ってしまいます。しかし、今回の新技術は「光が背景方向へすり抜ける」ことにより、文字通りの不可視を実現したというものなのです。
実はこの技術、2006年の終わり頃にも一度話題に上った事がありました。そのときは残念ながら布状ではなく、帯状のグラスファイバ製リングを同心円状に並べたもの。このリングの横から周波数8.5GHz付近のマイクロ波を当てると、表面では反射も散乱もせずに、中心を迂回するように「すり抜け」、向こう側では元通りに直進するというのです。一方、向こう側からやって来る波も、行きと同じように「透過」してくるため、リングの中央にモノがあっても、マイクロ波で見る限りは何も目に映らない、ということでした。そして、これを更に発展させたものを、今年8月にカリフォルニア大学の二つの研究グループがそれぞれ発表しました。それは、積層構造の銀とフッ化マグネシウムに格子状に四角い穴をあけたものと、もう一方は酸化アルミニウムに無数の孔をあけて、そこに銀の棒を挿入したもの……。どちらも今一つイメージしにくいですが、10μm単位で構造をコントロールする事により、赤外線や可視光領域の電磁波にも入射方向と反対(つまり直進方向)への「負の屈折」を生じさせることができる。つまり、「背景が透けて見える」という現象が起こるというのです。
但しこの理論でいくと、例えば屋外で立っている人を想像した場合、背中に当たる光が「負の屈折」を起こすと、前に回ってくる。つまりは「後ろ姿」が見えるという事になると思われるのですが、残念ながらこれについてのアナウンスは、まだありません(どうなるんでしょうね……?)。
「メタマテリアル」と呼ばれるこの新技術は、電磁場の誘電率と透磁率の値を、自由に設計できるのが特長。つまり、「見える/見えない」というのも、その中の一つの事象で、むしろ副産物とも言えるものなのでした。例えば、電磁場をコントロールする事ができれば、光ファイバでは反射を抑制して伝送効率を上げる事ができたり、カメラなどレンズも、もっと薄くする事ができるでしょう。これらの身近な技術から、「常温核融合」など、大がかりなものにも応用ができるのではないかと期待される、まさしく「夢の技術」なのです。