
2019年12月20日更新
次世代のカメラは頭脳明晰?
今・昔・未来☆テクノロジー万華鏡は、「近未来の快適デジライフ」や「エンジニアリングなよもやまばなし」の掲載から10年経った今、果たして本当の「未来」はどうだったのか、そして、これからどうなって行くのかを考えるコンテンツです。








カメラがフィルムからデジタルになり、スマホに搭載され小型化しても、撮影時に設定したピントや露出が写真の仕上がりになるという点はあまり変わりがありませんでした。しかし、最近のスマホに搭載され、進化を続けているコンピュテーショナルフォトグラフィでは、写真の出来が決まるのは撮影時ではないのです。
カメラの撮影ボタンが押されたとき、カメラはその後の処理に必要な様々な情報を入手します。それは人間の目で見たものを記録するという範囲を大幅に超えたデータです。そして、その中間データをもとに写真の最終形を計算で描画していきます。ピントの位置も、被写界深度も後から決めることができます。写真の部分部分を別の値で描画することもできます。そうすることで距離の離れた2人の人物にそれぞれピントを合わせながら周囲にボケ味を出すことも可能になります。コンピュテーショナルフォトグラフィにとって撮影とは処理用の中間データを取得することを意味し、写真撮影の途中経過ともいえます。
デュアルやトリプルレンズ、そして4眼、5眼といった複数のレンズを搭載するスマホも多くなってきました。スマホによってその機能は異なりますが、広角と望遠の組み合わせの場合、両方のレンズから得た情報を自動で合成することで、対象にピントを合わせて周囲をぼかす撮影が簡単にできます。また、カラー情報とモノクロ情報の組み合わせの場合は、色彩と陰影を合成することで、より立体感のある繊細な撮影ができるようになります。複数のレンズは様々な情報を同時に入手するための複眼の役割を果たしているのです。
さらにAIを搭載することで撮影モードの選択自体も不要になります。AIが撮影しようとしている被写体や周辺環境を自ら認識し、それに応じた後処理を自動でしてくれます。撮影者がすることは撮影対象とタイミングを決めるだけです。
また医療分野においては、意味のある画像を写すだけが撮影ではないという発想から、画像を生成せずに形状の信号を取得しAIに判別させるゴーストサイトメトリー法も生まれました。


カメラの精度や機能が高まるにつれて、膨大なプライバシー情報がカメラを通じて収集されてしまうということもあります。すでにAIを搭載した監視カメラネットワークが稼働している国もあります。1秒で国民全体、2秒で全世界の人々を照合可能な速度で身元の解析を行うことを目指しているといわれています。所得などの個人情報、インターネットでの活動、そして監視カメラによる行動の監視から得られた情報を統合し、一人ひとりを評価できる「社会信用システム」の構築が進めているようです。
カメラとAIの組み合わせによって、誰もが美しい写真を撮ることができ、高度な医療にも役立ち、その一方で、知らないうちに誰もが監視されている社会も作ることができる。その技術がもたらすメリットとデメリットにもしっかりと目を向けていく必要があるかもしれません。